遺言書の書き方~名前や財産の記載方法と注意事項
いざ遺言書を作成しようと思ってもどんなふうに書いたらいいのかわからない...
そうですよね。 ここではまず、
・基本的な遺言書の書き方と注意点
・遺言書に書いて法的に効力があるもの
・相続財産について
遺言書作成の基本
まず、遺言書の絶対的記載事項として
・「日付」
・「氏名」
・「押印」
があります。
これらの不備により無効となってしまわないように注意しましょう。
日付
日付は必ず令和○年○月○日と記載します。
よく手紙などにあるように令和○年○月吉日などと書かないようにしましょう。
年は西暦でも和暦でもどちらでも構いません。
氏名
氏名は必ずフルネームで書きましょう。
基本的に「苗字+名前」で書きます。
作家さんなどペンネームなどで活動している場合、本名でなくてもその人だと特定できるのであればペンネームでも問題ありません。
押印
印鑑は実印でも認印でもどちらでも構いません。
ただし、
・自署のあとの捺印
・本文の加除
・訂正の捺印
・封筒への封印
は同じ印鑑を使うようにしましょう。
「相続させる」
相続人に対して財産を遺す場合は「○○を相続させる」 と記載します。
例えば長男太郎に預貯金を遺す場合、 「○○銀行の預貯金を長男太郎に相続させる」 と記載します。
相続人に対して「遺贈する」と記載しても間違いというわけではありませんが、スムーズに遺言の内容を実現するためには「相続させる」と記載することが望ましいです。
これはどういうことかというと、例えば遺言者が不動産を所有している場合、本来なら不動産登記で「相続登記」をするところ、「遺贈する」と記載すると所有権移転登記となってしまうため、相続人全員で手続きをする必要が生じます。
また借地権や借家権についても相続の場合は不要なのに対し、遺贈の場合は賃貸人の承諾が必要となります。
「遺贈する」
相続人以外の人や特定の団体や法人に財産を遺す場合「遺贈する」と記載します。
相続人以外の人に財産を遺す場合、誰なのか特定できるよう名前と合わせて生年月日や住所を記載しておいた方がいいです。
また個人に遺贈する場合、できれば遺贈を受ける方の本籍地も記載しておいた方がいいでしょう。
遺言書を作成してから遺言者の死後、その内容を実現するまで相当期間が経過し受遺者が引っ越しなどで住所が変わっているかも知れません。
5年以内であれば住民票の除票を取得することで確認できますが、それ以上経過すると特定が難しくなります。
本籍地も変更から5年経過すれば旧戸籍の附表が取得できず特定が難しくなりますが、一生の間で本籍地を変更する可能性はあまりないかと思いますので受遺者特定のため本籍地まで記載しておく方が望ましいでしょう。
また特定の団体や法人に遺贈する場合、所在地や法人番号を記載します。
それから遺贈の場合、どの財産か指定して遺贈する「特定遺贈」と遺産の全部や割合を示して遺贈する「包括遺贈」があります。
同一人に対する特定遺贈と包括遺贈の併存は認められない可能性があるので注意が必要です。
また農地を遺贈する場合(特定遺贈)、農地法3条1項に基づき農業委員会または都道府県知事の許可が必要であるとされていますのでご注意下さい。
相続では上記許可は不要と解されています。
財産の書き方
ここからは具体的な財産の書き方を説明します。
預貯金
金融機関名 + 支店名 + 口座番号 を正しく記載します。
「私の預貯金の全て」などと書くのではなく、どの銀行口座の預貯金かわかるように具体的に書いた方がいいでしょう。
私の預貯金の全てと記載してもただちに無効となるわけではないのですが、金融機関によっては自社の銀行だと特定できない等の理由により解約・払戻しの手続きに積極的に応じてくれない可能性もあります。
不動産
登記事項証明書 記載の通り記入しましょう。
よく、住民票の住所や不動産の固定資産税納税通知書の住所でもいいかとご質問がありますが、住所の表記が違う場合があります。
法務局で登記事項証明書を取得し記載しましょう。
所有している全不動産がわからない場合、市区町村の役場で「名寄帳」を取得することにより不動産の一覧を確認できます。
ただしこれは、そこの市区町村に存在する不動産のみの情報になりますので注意が必要です。
1. 土地 所 在 〇〇市 地 番 〇番〇 地 目 宅地 地 積 〇〇.〇〇㎡
2. 建物 所 在 〇〇市〇〇町〇〇番地 家屋番号 〇番〇 種 類 居宅 構 造 〇〇造 〇〇階建 床 面 積 1階 〇〇.〇〇㎡ 2階 〇〇.〇〇㎡
有価証券
〇〇証券 ○○支店 口座番号134679 個人向変動利付国債 10年(第23回) など特定した書き方をするか、その後取引内容に変動がある可能性もあるようでしたら 〇〇証券 ○○支店 口座番号134679で保管中の預り金・有価証券・投資信託・その他一切の金融資産と明記するのもいいでしょう。
株式
○○株式会社 普通株式 200株 預託先:○○証券○○支店 (口座番号:321-4496)
証券投資信託
○○ファンド 500,000口 償還日 ○年○月○日 ○○銀行○○支店 口座番号134679
割合の書き方
全部相続させる 、もしくは
○○に1/3、▲▲に2/3相続させる。
○○に30%、▲▲に70%相続させる。
○○に3割、▲▲に7割相続させる。
いずれの書き方も有効です。
ただし不動産の場合、割合で指定すると「共有」状態となり後の管理などが複雑になります。
不動産の相続に関しては慎重に考えて記載しましょう。
遺言書作成における注意事項
1.必ず全文・日付・氏名を自筆で書く
全て自分自身で自筆する必要があります。
他の人に代筆してもらうことはできません。
平成31年1月31日民法改正・施行により、財産目録に関しては ・パソコンやワープロで作成 ・不動産の登記事項証明書や預貯金通帳のコピー を添付することが可能となりました。
2.加除・訂正は決められた方法で
遺言書を手書きで書くと、書き間違いを修正をしたい時がありますよね。
その場合、自筆証書遺言には訂正の仕方にもルールがあります。
例えば書き間違えた字を訂正したい時
・間違えた文字を線で消して押印し 「〇行目の〇字を訂正し、〇字加入(削除)」 などのように欄外に訂正したことを記入し署名・押印しなければなりません。
この決められた方法で加除・訂正しないと無効となってしまう可能性があります。
少し面倒ですが、新しく書き直されることをおすすめします。
3.封筒に入れる
書きあげた遺言書は変造・汚損を防ぐ為封筒に入れるようにしましょう。
できればその際、遺言書とは別の手書きで書かれたメモを残しておく方が望ましいです。
自筆証書遺言の場合、その遺言書が本当に本人によって書かれたものなのか争いになることがあります。
それを防ぐ為にも筆跡がわかるものを残しておくとよいでしょう。
自筆証書遺言は遺言者の死後、未開封のまま家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります。
それを知らないで開封してしまうと過料を課せられます。
なのでそのことがわかるように封筒の裏に「未開封のまま家庭裁判所で検認手続きを受けて下さい」と記載しておきましょう。
4.財産を特定して記載する
遺言書を作成する目的が「不要な相続争いを防ぐため」であれば、「誰に」「どの財産を相続させるのか」特定できるように記載します。
無効となるわけではありませんが、「3人の子供に3分の1ずつ遺産を相続させる」という内容では誰が何を相続するのか遺産分割協議(相続人が3人で話し合いで決める)が必要になり、話し合いがまとまらない可能性があります。
法的に効力のある遺言の内容
法的に効力のある遺言の内容として以下のものがあげられます。
法定相続分とは異なる各相続人の相続分を指定することができる。また、第三者に相続分の指定を委託することができる。
財産をどのように分けるか、具体的な遺産分割の方法を指定することができる。また、第三者に分割方法の指定を委託することができる。
相続開始から最長5年以内であれば、財産の分割を禁止することができる。
遺言内容を実行させるための遺言執行者を指定しておくことや、第三者に指定を委託することができる。 遺言執行者について詳しくはこちら→
先祖の祭祀を主催する人、墓や仏壇などを受継ぐ人を指定できる。
相続分から差し引かれる生前贈与や遺贈などによる特別受益分を相続財産に組み込まないよう免除することができる。 特別受益について詳しくはこちら→
相続人の廃除をしたり、廃除を取り消したりできる。
遺留分の侵害額請求を受けた際の負担額の順序が指定できる。
相続後の相続人同士による担保責任を軽減したり、加重したりできる。
財産を相続人以外の人に贈与することができる。
財産を寄付する、財団法人を設立することができる。
財産を指定した信託銀行等に預けて、管理、運用してもらうことができる。
婚姻関係にない相手との子の親子関係を認めること。胎児に対しても可。
推定相続人に親権者のいない未成年がいる場合、後見人の指定をすることができる。さらに後見人を監督する後見監督人を指定できる。 未成年後見人について詳しくはこちら→
相続財産とは
相続財産にはどんなものがあるのでしょう。
現金や預貯金、不動産また借金などのマイナスの財産も相続財産となります。
墓地や仏壇、位牌など祭祀財産は相続財産とみなされません。
・現金、預貯金
・不動産(土地・家屋・田・畑など)
・不動産上の権利(地上権・賃借権・抵当権など)
・動産(自動車・宝石貴金属・骨董品など)
・有価証券(株式・国債・手形など)、ゴルフ会員権
・その他債権(売掛金・貸付金・損害賠償請求権など)
・知的財産権(特許権などの産業財産権・著作権など)
・生命保険金(受取人が被相続人のもの)
・借金・ローン、保証債務
・公租公課(未納の税金、社会保険料など)
・買掛金
・損害賠償債務
・祭祀財産(墓地・仏壇・位牌・遺骨など)
・香典・葬儀費用
・生命保険金(受取人が被相続人以外のもの)
・死亡退職金
・埋葬料
権利や義務 たとえ遺言書があったとしても法定相続人が最低限度財産を受取ることができる権利として「遺留分」や配偶者の方の住まいを確保する為の「配偶者居住権」など遺言書に関わる様々な法的な権利があります。
また自分の死後、ペットの世話を頼みたい場合「負担付遺贈」という形で遺言書を作成することもできます。
まとめ
遺言書は
「誰に」
「何を」
相続させるのか(遺贈するのか)
できるだけ特定できるように記載しましょう。
また「付言」というかたちで残された人に遺言者の「想い」を残すことも重要です。
権利や義務なども考慮しご自身にあった遺言書を作成しましょう。
わからない場合はぜひ専門家にご相談下さい。
遺言書に書いて効力があるものは法律で決められています。
しかし法的な効力はなくても遺された方へのメッセージとして遺言書に「想い」を記しておくことはとても大切です。
遺された人たちはどうしてあなたがそのような内容の遺言書を書いたのか理解することができ、あなたの気持ちに寄り添うことでその遺言の内容を受け入れやすくなります。
またあなたの「想い」を知ることで相続人同士の不要な争いを避けることができます。
「死」という悲しい出来事がおきた最中にある相続。