遺言書がない-リスク・デメリット・トラブル事例
遺言書がない。
その場合、相続手続きでは「遺産分割協議」が必要になります。
しかし近年相続人間で遺産分割協議がまとまらず、トラブルになる例も少なくありません。
ここでは遺言書がないとどういったことが起こるのか、起こり得るのか見ていきましょう。
リスク・デメリット
1.相続人間で争いが起こる
遺言書がない場合、遺言者の死後、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
この協議を行わないと、預貯金の解約、払い戻し手続きや不動産の名義変更などをすることができません。
※2019年7月1日施行の相続法改正により、一定額までは預貯金の払い戻しができるようになりました。
そう考えている方もたくさんいらっしゃる思います。
しかし、実際には遺産額が5,000万円以下の事案でもなんと77%が裁判による紛争へと発展しています。
※参照:裁判所『令和2年司法統計』より
「相続争い」とは遺産があるから(多いから)起こるというわけではないんですね。
遺産額が少ないがゆえに、お金がないからこそ、その少ない遺産を巡って「相続争い」が起こってしまいます。
遺産が数十万円、数百万円でも相続争いになることがあります。
そもそも「争い」になるかどうかは遺産の額だけではなく、相続人間の関係性、感情、暮らしの状況によるところが大きいです。
遺産が少ないから争いにならないという理屈は成り立ちません。
争いになると、家庭裁判所での審理期間が6ヵ月以上~2年以内のものがおよそ60%を占めています。
相続争いが起こると費用も時間もかかってしまいます。
2.相続人の中に未成年者がいる
相続人の中に未成年者がいると、その未成年者は遺産分割協議に参加することはできません。
原則として、未成年者の法定代理人は親権者ですが、例えば父親が亡くなり、相続人は母と子どもだった場合、この母は自分も相続人であるため親権者(法定代理人)として遺産分割協議に参加することができません。(利益相反行為といいます)
よってこのようなケースでは家庭裁判所で未成年者に対する特別代理人の申立をしなければなりません。
特別代理人の申立をするとき、候補者として利益相反のない親族などを指定することができます。
3.事故や病気、認知症
事故や病気、認知症などで判断能力がないとされた方は遺産分割協議に参加することができません。
もし、そのことを知らず、遺産分割協議に参加させてしまった場合、その遺産分割協議は無効となります。
では認知症などで判断能力が低下している人がいる場合、どうしたらいいのでしょう。
家庭裁判所で「後見人」を選出してもらう必要があります。
しかし一度後見人をつけると、「遺産分割協議の時だけ」ということはできず、裁判所で認められない限りその後見人を解任することはできません。
生涯(亡くなるまで)後見人がつくことになります。
解任できる条件として、
・後見人の不正行為
・著しい不行跡
・その他後見の任務に適しない事由
が求められます。
裁判所が解任を認めないと月数万円の費用を生涯払い続けることになります。
さらに遺産分割協議に伴い家庭裁判所に後見人の申立をする場合、遺産分割協議の文案や財産目録の提出を求められることがあります。
そして原則としてこの「成年後見人制度」は本人の財産を守ることを趣旨としているので、遺産分割においても本人が法定相続分以上の財産を確保した内容でなければ遺産分割協議の合意を認めない傾向となっています。
4.相続人の中に行方不明者がいる
遺産分割協議を行う場合、法律で「相続人全員で」という決まりがあります。
相続人の中に長年家族と疎遠になっている人や、不仲で連絡を絶っている人がいる場合、それらの人を見つけ出し協議することは容易ではありません。
もし相続人を見つけることができないと、裁判所で不在者財産管理人選定の申立をし、遺産分割を進めなければなりません。
不在者財産管理人とは行方不明の相続人に代わり、家庭裁判所の許可を得て遺産分割協議に参加する人のことです。
もし行方不明の相続人について、失踪宣告が行われている場合は失踪者は死亡したものとみなされ、その者に代襲相続人がいれば協議に参加することができます。
トラブル事例
ここからは遺言書がないために起こった相続トラブルの事例をいくつか見ていきます。
遺産の大半が不動産
不動産は現金と違い分割できないので協議がまとまらないと共有状態となってしまいます。
共有不動産は賃貸したり売却する時に共有者全員の合意が必要になり使い勝手の悪いものになってしまいます。
遺産分割がまとまらないので人に貸したり売ったりするのも話がまとまらない可能性があります。
不動産を誰か一人が相続して、その差額の金銭を他の相続人に支払うという遺産分割もできますが、不動産は資産価値が高く、現金で用意するのは容易でないということもあります。
再婚である
父親は再婚であり前妻との間に子供が一人、後妻との間に子供が一人いるケースです。
父親が亡くなった時、後妻の子は前妻の子の存在を知らず、自身が相続人となり相続財産を取得できると考えていましたが、被相続人が亡くなった後に前妻の子が現れ遺産の分割を請求されるといったケースです。
たとえ戸籍上別々になっていたとしても、前妻の子も、後妻の子も同じだけ法定相続分があります。
具体的にどのような状況になるのか見ていきましょう。
太朗さんは離婚歴があります。
現在は後妻の花子さんと息子の一男さんと暮らしていました。
預貯金は200万ほどで、残った遺産の大半を占めるのは住んでいる自宅でした。
太朗さんは亡くなってしまいましたが、花子さんと息子の一男さんはこれからも住み慣れたその家で暮らし続けたいと思っています。
しかし、太郎さんの相続手続きを進めていく中で、前妻の子が現れ遺産分割を求められました。
前妻の子にも相続権があります。
相続分は花子さんが1/2、一夫さんと前妻の子はそれぞれ1/4ずつです。
花子さんと息子の一男さんがその家に住み続けるためには前妻の子に遺産の1/4を支払わなければなりません。(これは法定相続分であくまで目安であり、話し合いにより割合(金額)を決めることができます)
不動産は資産価値が高く、預貯金が少ない場合は花子さんと一男さんの負担となってしまいます。
このようなケースでも生前に遺言書を作成したり対策をとっておくことでトラブルを回避できます。
遺産分割協議がまとまらない
子どもがいないご夫婦の場合は、相続人は配偶者の両親や兄弟、甥姪になります。
子供がいないご夫婦は親戚づきあいがあまりないというったご家庭も多く、配偶者の親族や兄弟と遺産の分け方について話し合うのは容易ではありません。
また遠方に住んでいたり高齢だったりと遺産分割協議が中々まとまらず相続できないといったケースも多く見受けられます。
他にも、
・被相続人の住んでいた家の築年数が古く売却できない
・処分するか所有するかで意見が分かれる
などでトラブルになる事例があります。
まとめ
遺言書は「不要な相続争い」を避けるため、また「困ったという状況にならない」ためにもとても有効です。
遺された人のために事前にきっちりと対策をしておきましょう。
遺言書に書いて効力があるものは法律で決められています。
しかし法的な効力はなくても遺された方へのメッセージとして遺言書に「想い」を記しておくことはとても大切です。
遺された人たちはどうしてあなたがそのような内容の遺言書を書いたのか理解することができ、あなたの気持ちに寄り添うことでその遺言の内容を受け入れやすくなります。
またあなたの「想い」を知ることで相続人同士の不要な争いを避けることができます。
「死」という悲しい出来事がおきた最中にある相続。